朱に交わればどうにかなるもんで、俺はもうすっかり部活メンバーに溶け込んでいた。
昼飯は皆で弁当を広げ、互いのおかずをつつき合いながら食う。
 そんな微笑ましい光景の中にすっかり馴染んで違和感も無い。一応元の世界に戻る方法も
考えなければならないのだが、そんなことを忘れさせる魔法にかかってしまったかのように、
ここでの生活を楽しむ俺がいる。

「今日はレナさん随分とご機嫌ですわねー!?何かあったんですのー???」
「ねー。おじさんもちょっと気になってさ〜。今朝学校来るときからずっとこうなんだよ。
いいことあったんならおじさんたちにも教えてよー!」
「はぅ〜……実はね、……やっぱり内緒だよ!だよ!あははは」
「ちぇー、気になるなぁ。喜びは分かち合おうよ〜」
「きっと心の中に大切にしまっておきたい喜びなのですよ、魅ぃ」
 昨日、宝探しのあと、俺たちは家の近くの土手に行って少しばかり話をした。そこで聞いたのは
いわゆる家庭の事情ってやつなんだが、何でそれを俺に話そうと思ったのかは分からない。
本人にだって分からないかもしれない。無意識のうちに感情の堤防が決壊するのを抑えたかったのか。
学校でのレナはそんな様子を全く見せない分、ためらいがちに語られた内容に少々驚かされた。

 レナは父親と二人暮し。去年雛見沢に引っ越してくる前に両親は別れてしまったそうだ。
母親はバリバリのキャリアウーマンって感じの人だったらしいが、仕事関係の知り合いに惚れて、
それが離婚の原因となった。こっちに引っ越してきてから、父親はリナという水商売の女にハマった。
離婚で傷ついた反動だろう、すっかり熱を上げた父親がそいつを家に招くようになり、次第に居ついて、
なんとまあ泊まったりまでするそうだ。
 言うまでもなく、そこはレナの家でもある。
「今も多分その人が来てるから、何だか帰りづらくって。ごめんね、ワガママ言って」
 寂しそうな微笑みが痛々しかった。家に帰ればその女がいる……ひょっとしたら、
宝探しは時間つぶしのためでもあったりするのかもしれない。そう思ったら何かしてやりたくなるのが
人情ってやつだ。俺はガラにもなくレナに約束をした。
 さっき欲しいけど取れなかったと言ってたケンタくん人形、明日俺が取ってやる。
だからってレナの家がどうなるわけでもないけどさ、それで少しでも元気が出るならな。

 そういうワケで今日のレナは上機嫌、なんて思い上がるつもりはないが、もし昨日の約束が
レナの明るさの一部となって、今みんなを照らしているのだとしたら、友達冥利につきるね。
放課後の宝探しに、微力を尽くしたい。
 さて、一日の授業と、まるでそれも授業の続きであるかのように自然と始まる部活動とを終えて、
俺たちは学校を後にする。おっと、今回の部活は負けなかったぜ。俺にだって意地がある。
 ちなみに最下位になった梨花ちゃんは、何故か用意してある小学生サイズのメイド服とネコ耳の
組み合わせで、校長先生の頭を撫でに行く羽目に。もし自分が負けていたら……
想像しただけで、背筋が氷河期にタイムスリップした。

 魅音と別れ、俺とレナは瓦礫の山へ。ケンタくん人形のある場所に案内してもらう。
なるほど確かに女の子一人でこれを取り出すのは無理だ。小高く積まれたゴミ山の下の方から、
頭と肩の部分が横に向かって飛び出してる。人形の上に乗ってるガラクタの重さを考えたら、
引っ張り出すことはできないだろう。上のガラクタを根気強くどかすしかない。
 蒸し暑い中、テレビやら冷蔵庫やらを少しずつ運ぶ。汗でシャツがベッタリ貼り付いて気持ち悪い。
なんか、一生懸命だな、俺。
 やっとの思いでジャマなゴミを全部どけて、ケンタくん人形の全身が現れる。
「!!!!! かっ、 かぁぃぃぃぃ〜〜〜……」
 どんな喜び方をするのか、また発狂するのかと思いつつレナを見てみると、
小動物のようにぷるぷると小刻みに震えていた。やっぱりこの子の理解には困難を極める。
「……っ! ありがとうキョンくん!わっ、すごい汗だよ?だよ?
そうだ、お家から冷たい麦茶持ってくるね!ちょっと待ってて」
 はっと我に返りそう言うと、レナは小走りで駆けていった。俺は一仕事終えた心地よさに身を委ね
近くの傾斜に寝転がると、なんとなく今日の出来事を思い返す。
 メイド服の梨花ちゃんに、小動物のようなレナ……その流れから朝比奈さんを連想してしまう。
この世界にもSOS団があるんだっけ。ハルヒのヤツが無理やりコスプレさせたりしてんのかね。
ちくしょう羨ま……朝比奈さんもかわいそうだよ、ホント。
 物思いにふけっていると、レナが水筒を持って戻ってきた。キンと冷えた麦茶を美味しく頂いて、
それからゆっくり歩いて家路についた。もちろん、レナは人形を大事そうに抱えながら。

 夜、あちこちに筋肉痛の予兆を感じさせる体をほぐしていると、朝比奈さんから家に電話があった。
 ええいつでも空いてますとも、場所は朝比奈さんの行きたいとこでいいですよ、だって俺はあなたの
笑顔があれば、どこにいたって幸せになれる自信がありますので。……なんて誘われてもいない
デートの返事に万全の準備を整えていたんだが、電話の内容は第2回SOS団員会議の招集だった。
明日午後二時、エンジェルモート集合とのこと。土曜だから学校は昼には終わりだ。
 どうやらSOS団の三人は、二日間、この世界の状況把握や脱出策についてハルヒの目を避けつつ
話し合っていたらしい。限りなく危機感ゼロに近い自分がものすごく申し訳ないね。スイマセン。

 翌日、魅音が上機嫌モードだった。何なんだ。それ、当番制なの? という疑問はさておき、
その魅音に、ちょっと用事があるから部活を休ませてくれと頼んだ。
「あー、そうなの?全然いいよん☆ っていうかどっちにしろ今日は部活無しの予定だったし!
綿流し前日だからね、おじさんと梨花ちゃんはちょっくら準備があるんだよ」
 なら丁度いいな。そうか、明日は綿流しか……。
 そんなわけで学校が終わると魅音は梨花ちゃんと沙都子の三人で帰っていく。
残ったレナと二人の帰り道で、今日の宝探しは休みにしてもらいたいことを告げる。
「うん、構わないよ。昨日あれだけ頑張ってケンタくん人形取ってもらったし、あ……
キョンくん筋肉痛になったりしてないかな?かな?」
 まあな、こんなとこにも筋肉があったんだと今朝から発見の連続だ。
「あはは。どこなんだろ?どこなんだろ? それに綿流しの前だし、ゆっくり休んで
明日は元気いっぱいで楽しみたいよね!」
 みんな随分楽しみにしてるよな。おかげで俺もだいぶ期待し始めている。
 家の前で明日の待ち合わせ時間を確認してから、レナと別れた。二階にある自室に行き、
窓から望む雄大な自然の中にぽつんと一人、徐々に遠ざかって小さくなるレナを見ていると、
何となく後ろめたい。今、彼女の家がどういう状況なのか知っていて、一人にしてしまう。
いや、俺がそんなことに責任を感じる必要は無いんだが。学校が早く終わって、持て余す時間を
どう過ごすのか……。そんなことを考えながら着替え終わり、玄関を出ると自転車に跨る。
二時前には着きそうだ。


 待ち合わせ時間まで五分ほど余裕をもって到着したエンジェルモートには、すでにSOS団の
三人が俺を待っていた。とりあえずテーブルに着いて、アイスティーを頼む。
「すいませんね、急に呼び出してしまって。現在この世界がどういう状況か、その対策など、
朝比奈さんと長門さんのおかげである程度の予想が立ちました。それに関連してお伝えしたいことが
あるんですが、どうしても今日がよかったもので」
 それは構わないが古泉、別にお前に呼び出されたわけではない。注文したアイスティーが来ると、
やや困り顔の朝比奈さんが話し始めた。
「えぇと、こないだお話したように、うーん、結論から言うと未来と連絡が全くつかないんです。
考えられる原因で一番可能性が高いのは、ループしてるってことなんだけど……でもあくまで一般論で、
断定はできないんです。閉じ込められた側からは、はっきりと分からなくて……」
 さらにSOS団の知恵袋たる長門が淡々とした顔で付け足す。
「それと時間平面理論の応用による遡及的改変行為が認められる」
 いまいち話が見えないが、要するに、ハルヒ、か?
「いえ、その可能性は半々かと」
 何故?というか結局どういうことなんだ?
「簡単にまとめますと……ここはループ世界の可能性が高く、我々はそこに押し込められたと
いうことです。その上で、この世界の改変も行われていると考えられます。
時代が昭和ですので、時間移動もしくはそれに準じた何かがあったことは間違いないでしょう。
しかしそれだけでは朝比奈さんが未来と連絡が取れない理由が分からない。そこでループの可能性が
指摘できます。さらに、単に時間移動しただけなら周囲が我々を認識していることが不自然です。
したがってこの世界はそのように改変されたものだと考えるのが妥当、というわけだそうです」
 なるほど。んで、ハルヒが犯人の可能性は半々の理由は?
「おそらく改変のせいでしょうが、困ったことに我々の能力についてはその殆どが抑制されています。
これが涼宮さんの望んだ結果とは考えにくいのです。逆にそこら中の人に特殊な能力が備わっていたら、
涼宮さんによる可能性は高いといえるかもしれませんが」
 確かに。けど、じゃあ誰がこんなことするんだ。いくらなんでもワケ分からん。
「それは我々にも分かりませんが、北高が存在していることから、その関係者の可能性は高いかも
しれません。さらに……前回お話した時すでに気付いてらしたようですが、あなたのアダ名、
それは妹さんが広めたそうですね。しかしこの世界には妹さんがいらっしゃらない。にも関わらず、
周りの人たちにアダ名で呼ばれる。改変者がそのような認識をインプットしたのでしょう。
だとすれば、少なくともあなたのアダ名を知る人間が改変の犯人であると推測されます」
 元の世界の北高で俺のアダ名を知るやつはクラスメイトとSOS団、あと同じ中学の出身者ぐらいだ。
その中でこんな真似をしそうな奴は……ハルヒを除けば一人だけいるな。いるというか、いたな。
「ちなみに、この世界でその方の存在を確認しました。涼宮さんと同じクラスです」
 喉が急激に乾燥していくのを感じて、俺はアイスティーを流し込んだ。

 それで、どうすれば元に戻れるんだ。
「……少し話が回り道しますが、明日は綿流しというお祭りだそうですね」
 うん?らしいな。知ってるのか。
「園崎詩音さんという方から聞いて知りました。昨日SOS団の部室を訪ねてきまして、
いきさつについては長くなりますのでまたの機会にお話しますが、SOS団を綿流しに誘ってくれたんです」
 園崎……詩音?ちょっと待て、俺の行ってる学校には園崎魅音てのがいるぞ?姉妹か?
「双子の姉がいると言ってました。まさかあなたの学校とは……」
「わわっ、そういえばあたし、今度詩音さんにここのレストランの制服もらうことになったんだ……
昨日メイドの衣装着てたから何か勘違いされちゃったのかなあ……ふえぇ、よく見るとすごい露出……」
 うむ。元の世界には是非それを持って帰りましょう!っと、で、綿流しがどうした?
「僕はSOS団が綿流しに行くことになったのは、涼宮さんが望んだからだと思うんですよ。
涼宮さんは何かイベントが欲しくなった、そのため綿流しの情報がもたらされたのではないかと」
「涼宮ハルヒに制限がかかっていないのであれば、原状作出が元の世界に戻る鍵」
 古泉の言葉に続けて話す長門の顔に、微かに希望の色が差しているように思えた。

 つまりハルヒだけはここでも世界をどうこうできちまうってことか?
それならば、元の世界と同じ状態を作り出して、それをよしと思わせれば戻れるかもしれない──
「ということになります。もちろん、涼宮さんの能力云々は推測の域を超えませんが、
試してみる価値はあるでしょう。元の世界との相違点、つまり涼宮さんにあなたの認識がなかったこと、
SOS団にあなたが所属していないこと、これがポイントではないかと考えられます。
この二点は障害であり、その克服が目標になります。明日の綿流しは是非あなたにも行って頂いて、
涼宮さんの心証を可能な限り良くしてもらいたいのです。先日の第一印象はあまり好ましいとは言えない
ものでしたので……。最終目標は涼宮さんにSOS団の入団を許可してもらうことになりますかね」
 とりあえず綿流しには学校の連中と行く予定だ、そこは心配ない。けどまあ……
ハルヒが犯人の可能性は半々、か。なるほどね。無理やり引き込まれたはずのSOS団に、
今度は俺の方から入団を望むような形になるとはな。皮肉なもんだ。



TIPSを入手しました



≪園崎詩音と涼宮ハルヒ≫

≪開演≫



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