「綿流し?」
「そ! 毎年この村でやるお祭りでねー。キョンちゃんも行くでしょー?
屋台がたくさん出たり、まぁ一見普通のお祭りなんだけどね。最後に古くなった布団を鍬で裂いて、
中の綿を川に流すの。それが供養……くょっ……くっくくっ、ぷはっ……ははっ、あははは、
あっはっはっはっはっはっ……も〜ダメ、キョンちゃん面白すぎるよ! 何その顔!」
「み、魅ぃちゃん……あんまり笑っちゃ悪い……くすっ。あっ! ご、ゴメンねキョン君、
そんなつもりは……」
 バカ笑いする魅音と、笑いを堪えて引きつった顔のレナ。この二人と俺は家の方向が同じなんで
学校の行き帰りを共にしている。下校途中、レナも魅音も人の顔をマトモに見ようとせず、
泳いだ目でチラ見しては楽しんでやがる。
 さて、まずはこの状況に至るまでを説明しましょうか。


 昨日、俺が早退したせいで中止になってしまった部活。特に何をするかは決まっていないが、
みんなで楽しく色んなゲームをして遊ぶことを活動内容としている。妙な大義名分の無いSOS団。
つまりそんなところだ。何とも健全で素直じゃないか。……これだけならな。
 ま、とにかく1クラスしかないこの学校には、そういう部活なるものが存在していて、魅音はその部長なのだ。
他のメンバーは、レナ、沙都子、梨花ちゃん。この世界での仲良しグループってやつだ。
 そして俺はまだ部活に所属していないらしく、昨日が部活初日として入部試験の予定だったらしい。
無論、入部試験もゲーム。その試験の結果次第で入部が許可されるそうだ。とは言っても入部はすでに
決まっていて形式だけの入部試験、そんな印象を受けなくもない。さらに、浮かれ気味の魅音や沙都子。
この時点でいやな予感はしてたんだけどね。

 この部活の方針は、どんな戦いも勝利あるのみ、勝つためなら手段を選ばず、いかなる努力も厭わない。
最下位すなわち敗北者には恐ろしい懲罰が待ち受け、その回避のためなら他人を蹴落とすことすら躊躇わない。
スパルタ市民も裸足で逃げ出す冷徹なる会則のもと、日々鍛練を怠らない。そんな感じらしい。
 入部試験に選ばれたゲームはジジ抜き。ババ抜きとルールは同じだが、ジョーカーを加えるのではなく、
52枚のカードの中からランダムに一枚抜いて、そのカードの数字がジョーカーの代わりになる。つまり、
ババが何だか分からないババ抜きってワケだ。
 そういうルールだし、多少の心理戦や深読みも必要と考え、俺は頑張ってみることにした。ここにいるやつらは
おそらく毎日ハイレベルな戦いを繰り返しているだろうから、この手のゲームは強いはずだ。
 対する俺の最近のゲーム遍歴といえば、下手の横好き以外に表現できない古泉相手に時々やるぐらい。
これはちょっとやそっとじゃ歯が立たないかもしれない。俺にできる最大限の努力をしなければ勝てないだろう。
よし、本気でやってやろうじゃねえか!

 ……と考えていたんだが、甘かった。そりゃね、みんなカードのわずかな折り目やキズ、色あせ具合まで
52枚全部覚えてるんだぜ。俺だけが見えない公開ジジ抜きだったんだからな、連敗に次ぐ連敗。勝てるわけがない。
もう何とも無残な負けっぷり。しかも入部試験といえども、最下位の者には容赦ない罰ゲームときたもんだ。
 初日なんで、顔に落書きだけで済ませてくれたそうだが、油性はやめて……なんて嘆願も当然のごとく聞き入れてもらえず、
やつらマジックどころか口紅やらアイシャドウやら化粧品まで持ち出して、あぁ──以下、ご想像にお任せする。
 ちなみに、最後まで諦めなかった心意気が評価されて俺の入部は許可された。ハイ、しばらくみんなのオモチャ決定。


 そんな部活を終えての帰り道、家に着くまで落書きはそのままにしておくことを強制されている。
「いや〜、ごめんごめん。あまりに芸術的だったからさー。それでね、お祭りの最後の奉納演舞を
古手神社の巫女さんとして梨花ちゃんがやることになってるんだけど、それがなかなか見物なんだよ。
だからキョンちゃんも絶対行くんだよ! 今年もやるから部活メンバー綿流し五凶爆闘!」
「あは。魅ぃちゃんやる気満々だね!」
 おいおい、物騒な響きだな。部活と結びつくことでさらに凄みを増すことはとりあえず俺も学習済みだ。
お祭りは嫌いじゃないが、そんな時まで部活を延長しなくてもいんじゃないか。せめて普通に楽しませてくれ。
「あっはっは。うちの部活に入った以上、そうはいかないよ〜? どんな時、場所でも勝負があった方が
気持ちが盛り上がるじゃない? んー、結果的に屋台荒らしの要素もあるかもしれないかな〜。
日頃の活動の成果を発揮するわけだからね。くっくっ、おじさん今から楽しみでさー」
 対外試合ってやつか。ったく、魅音のそういう精神は女にしとくにはもったいねーよ。
「ははっ、よく言われるよ! 時々なんで自分が女なのか疑問に思うこともあるからなぁ。
それにしてもキョンちゃん、あまり乗り気じゃないのー? あ、ひょっとして……、
レナを誘って二人で行こうと考えてる!? ひと夏の思い出にオトナになっちゃうつもりとか?」
「み、魅ぃちゃん……はぅ……」
 やれやれ。真っ赤な顔して困るレナをゲラゲラ笑いながらバシバシ叩く魅音。
なんて対照的な二人なんだ。ま、乗り気じゃないなんてことはないけどな。お祭りは好きだ。
 部活の延長ってのも考えようによっちゃなかなか味わえない楽しみ方かもしれないし。
「そうそう、そんなわけだからさ、楽しみにしててよ! んじゃおじさんこの辺で! じゃね!」

 魅音と別れると、レナがちょっぴり不安げな表情で聞いてきた。
「あ、あのさ。全然話変わるんだけど、これからレナの宝探しに付き合ってもらっても、いいかな?かな?」
 宝探し……? 何だそれ? よくわからんが、別に帰ってもヒマだしな。全然構わないぜ。
「ホント? わっ、嬉しいな。じゃあこっちだよ! だよ!!」
 一瞬で咲き誇るヒマワリのような笑顔になって俺の手を引っ張るレナは上機嫌を振りまいている。
この子はきっと本当に純粋なんだろう、と思いながら連れて行かれたその場所は、粗大ゴミの山だった。
道端から少し離れた木々の向こう、やや急な斜面を下ったところに積まれたタンスにソファー、
テレビに冷蔵庫。その他諸々。こんな瓦礫でどんなハードな宝探しをする気だよ。
「はぅっ、……レナにとっては……ゴミの山じゃないんだよ……」
 今度は夕立寸前の曇り空、表情の七変化は俺の心を揺さぶってばかりだ。マズイこと言っちまったかな。
ひょっとしたら何か思い出の場所なのかもしれない。

「ここはね……レナにとってはね……、

宝 の 山 なんだよ!!! だよぉぉおおお! はう〜〜かぁいいがいっぱいぃぃぃいいい!!!
かぁいいよぅかぁいいよぅぅ!!! お持ち帰り〜〜〜〜〜!!!!!」

 狂人のごとく叫びながら、レナはゴミの山に駆け出していった。価値観ってやつは千差万別。否定する気はないさ。
「危ないから気をつけろよー……」
 粗大ゴミが無造作に投げ捨てられているし、こんなところで遊んでいたら怪我しないとも限らない。
それに、付き合うって言ったからな、とりあえず近くに座って見守ることにする。
 竜宮レナ。その性格は分かるような分からないような、底抜けに無邪気かと思えばどこか影がある一面をのぞかせたり。
部活メンバーの中でも、特に掴みにくいというか……。
 暮れかかった空を眺めながらそんなことを考えつつ、次第にぼんやりとしてきた意識の内側に、無機質な音が
斜め後ろから瞬時に切り込んできた。
 パシャッ!
 振り返るとそこにはタンクトップでカメラ片手に怪しく微笑むおっさんがいた。

「何ですか? いきなり」
「いやいや、ごめんね。夕暮れにたそがれる少年が、あまりにも絵になっていたんで、つい……。断りなく
撮影してしまったことは謝るよ。すまないね。普段は野鳥撮影がメインなんで、ちょっと気が回らなかったんだ」
 おいおい、俺を野鳥と同等に扱ったのかよ。いいけどさ。
「はははっ、ごめんごめん。君は雛見沢の人かい?」
 ええ、まあ。最近引っ越してきたばかりですけど。そういうあなたは雛見沢の人じゃないんですか?
「うん。僕は富竹。フリーのカメラマンさ。雛見沢には年に4回ほど来てるんだ。ここの自然は本当に素晴らしい。
それにもうすぐ綿流しだからね、今はそれで滞在しているんだ。引っ越してきたばかりじゃ、まだ見たことないかな?
奉納演舞や川に綿を流す場面なんかはすごく綺麗だよ。君も是非行ってごらん。きっと楽しめるから」
 へぇ、そのためにわざわざ来るぐらいじゃ、結構すごいお祭りなのか。
「そうだね、期待していいと思うよ。ところで彼女、さっきからゴミの山で何してるんだい?」
 さぁ? 昔埋めたバラバラ死体でも探してるんじゃないっすか?
「はは。嫌な事件だったよね」
 ……え?
 ちょっと待て──
「キョンくーん!!」
 富竹と名乗るカメラマンに聞き返そうと、開いた口から質問を投げる寸前で、俺を呼ぶ声にそれはさえぎられた。
レナが帰ってきたのだ。
「おっと、彼女が戻ってきたね。お邪魔しちゃ悪いから、僕はこれで。それじゃまた、キョン君」

 親しか知らないはずの欲しい物、なのに何故かサンタさんがそれを知っていて、
クリスマスの夜、寝ている間に枕元へプレゼントをそっと置いていってくれた、
翌朝、明らかにデパートのクリスマス用包装紙であることに微塵の疑問も持たずに、
それを丁寧に開けると中からは念願の……、そして大喜びでプレゼントを大事そうに抱きかかえる、
過ぎ去りし日の子供時代のようにレナは炊飯器を両腕で包み込んでいる。
 それ、そんなに嬉しいか?ってかもう壊れていて使えないし、壊れてなくても使う気になれないだろ。
「はぅ〜、こんなにかぁいい炊飯器が見つかるなんて……」
 炊飯器のフタを愛しそうに撫でるレナに、かける言葉は思いつかなかった。
「なぁ、ところでさ、さっきの場所で何かあったの? 殺人事件とか」
「知らない」
 俺が言い終わらないうちに、レナは拒絶をかぶせてきた。そう、否定というより拒絶。
まるでそのことを聞かれるのが嫌であるかのように。何だ? 何でだ?
 今までのレナからは考えられないくらいキッパリとした口調に面食らっていると、
申し訳なさそうに弁解してきた。
「あ、ごめんね。レナも去年引っ越してきたばっかりだから、よく知らないの……うん、ごめんね」
 ……たぶん何かあったんだろうね、あの場所で。けどそれに触れるのは好ましくない。いわゆるタブーってやつだ。
俺たちが暮らす社会、町や村、友人たちのコミュニティー、あるいは家庭。どこにだってタブーの一つや二つあるさ。
別に不思議なことじゃない。そうだろ? それを侵せば円滑な人間関係の構築に支障をきたす、ギクシャクする。
だから、触れる必要の無いものには触れない。それが良識ってもんだ。
「そっか。ま、いっか。……よかったな、可愛い炊飯器がみつかって。」
「うん!!! でもね、ほんとはケンタくん人形のほうがかぁいいんだよ!だよ!!
はぅ〜、ケンタくん人形も欲しかったなぁ」
「って、フライドチキンの店先にあるでっかい人形のことか?」
「そう。大きくって下の方に埋まってるし、取れないから諦めちゃった……」
 うーん、その『かぁいい』ものの基準が分からん。
 それから俺とレナは瓦礫の山について、あそこにはこんなかぁいいものもあるんだ、むこうはまだ未開の地だから
今度行ってみたい、そんな話をしながらしばらく歩いて、家の近くの分かれ道にたどり着いた。
「じゃ、俺こっちだから。また明日な」
 そう言って軽く手を振ろうとしたら、レナが俺を引き止めた。
「ねぇ、キョンくん。……もう少しだけ付き合ってもらってもいいかな?」
 今日は目まぐるしく変わるレナの表情をたくさん見てきた。が、その時の顔は一日通して俺に見せた
どの顔よりも真剣で、脳裏に火傷のごとく焼き付いた。



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≪興宮バイク事件≫

≪約束≫

≪*****の疑いにより、監視≫



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