「この石段を上がれば神社の境内です。」
「ありがとう!助かったよ!…うぅん、ちょっと遅刻しちゃったかな。」
冨竹さんは独り言を言いながら、自転車を脇に止め石段を足早に登り始める。
「約束の時間まで、まだ少しあるわね。あたしたちも神社で待たせてもらいましょ。」
ハルヒの提案に特に異存もなく俺たちも石段を登ると、冨竹さんが待ち合わせの
相手らしい女性にぺこぺこ頭を下げていた。その女性と目が合う。
「あら、こんにちは。あなたたちは…もしかして昨日魅音ちゃんたちと一緒にいた
観光の人たちかしら?随分楽しそうにしていたけれど、この村のことは気に入って
もらえた?」
「あれぇ、何だ、君たち、付いてきたのかい?」
「別にそういうわけじゃないです。あたしたちもここに用があるだけで…さっきも
そう言ったはずですよ?それより、そっちの人は?あたしたちのことを知っている
みたいですけど。」
「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。昨日、賑やかにしていた
あなたたちを見かけたものだから、つい声をかけてしまったの。」
「鷹野三四さんだよ。村の診療所に勤めてる。」
「くすくす。せっかくお知り合いになれたんだから、もし病気か何かで来たら、
ちょっぴりだけサービスしてあげようかしらね、くすくす。」
 鷹野さんと名乗った女性に見覚えはなかった。昨日道ですれ違ったのかもしれないが、
特に注意して通行人を見ていたわけではないので記憶にはない。鷹野さんはバッグと
一緒にカメラを持っていた。
「ひょっとして、お二人は写真仲間なのですか?それで待ち合わせをされていたの
でしたか。」
 古泉の問いかけに鷹野さんが笑みを浮かべて答える。
「仲間だなんてとんでもない。素人の私にジロウさんが優しく手ほどきしてくださる
だけなのよ?ねぇ?」
「ん、んはっはっは。そ、そんなことはないよ!鷹野さんは飲み込みが早いからね、
僕の指導なんかなくても、実に自由に撮影をこなすよ!本当さ。あっはっはっは。」
 ・・・・・どちらに主導権があることやら。
「もうすぐ綿流しね。今年はいい写真が取れるといいんだけど。」
「雛身沢の守り神、オヤシロさまに感謝するため、古い布団を積み重ねて感謝する
・・・確かそんな感じのお祭りでしたっけ?」
 ハルヒが昨日聞きかじった知識を披露する。確か魅音がそんな話をしていた。
「あら、ご名答。涼宮さん、観光に来ただけなのに博識ね。それともそれが目当て
なのかしら?・・・・そう、オヤシロさまに感謝するための、お祭り。・・・・・・・・ふふ。」
 鷹野さんは何か含みのある笑いをしたが、今のどの部分に笑うべき箇所があった
というのだろうか。
「やれやれ、鷹野さんは。・・・でもどうだろうね、今年は。」
「二度あることは三度ある。そしてもう四度あったのよ?五度目がないと言える方が
何の根拠もないと思うけれど・・・?。」
 そのささやかな会話の意味を俺たちは知っている。雛身沢連続怪死事件、俺たちが
ここに来るきっかけとなった、あのメールに綴ってあった単語だ。古泉の話では4年目の
事件はあったのかどうか不明確だったが、今の会話によるとやはり起きていたらしい。
「村の仇敵に祟りをなす、オヤシロさまか。・・・今年もあるとして、果たしてその矛を
受けるのは、誰になるんだろうね。あ!僕はここに来るたびにちゃんとお参りして賽銭を
入れてる!僕じゃないことは確かだよ。」
「あらそう?近年のオヤシロさまは異邦人に特に厳しいって話よ?ジロウさんは
毎年来るだけのただのよそ者。・・・さぁて今年は見逃してもらえるかしら。あなたたちも
気をつけたほういいわよ、くすくす。」
「ひ、ひどいなぁ。あっはっはっはっは!」
 富竹さんが引きつった笑いを上げる。いつの間にか犠牲者候補に加えられた俺たちも
同様だ。その中で、一人だけ身を乗り出し、目を爛々と輝かせている奴がいた。もちろん
ハルヒだ。
「本当のところ、冨竹さんたちはどう思ってるんです?やっぱり今年も事件は起きると
思いますか?」
「あら、興味津々という顔ね。・・・ふふ、涼宮さんとは気が合いそうだわ。」
「もう鷹野さんは。不幸が起きることを期待するのはよくないよ。」
「うふふふふ、ごめんなさいね。でもオヤシロさまの祟りは私のライフワークだし。
くすくすくす。」

「鷹野さんはオヤシロさまの祟りに詳しそうですね。ずばりどうでしょう。今年の
犠牲者になりそうな人に心当たりはありませんか?」
「・・・涼宮さん、サンタクロースの正体は知ってる?」
 突然わけのわからないことを聞かれ、ハルヒが答えに詰まる。
「なぁに、知らないの?・・・・・・パパよ。みんなの家のパパ。」
「・・・・なんだ、そういう意味ですか。それはそうでしょ。今時子供だって信じてない
です、サンタクロースなんて。」
「ここは人間の世界ですからね。すべての現象は人間で解明できるはずです。」
 急に興味を失ったように、つまらなそうな口調で話すハルヒに古泉がしたり顔で補足する。
・・・つくづく面の皮の厚い奴だ。
「その通りよ。人間の世で起こる現象は全て人間の都合で人間が起こす。では、もう一度
尋ねるわよ。今度はサンタクロースじゃなくて、オヤシロさま。オヤシロさまの祟りの
正体は、何かわかるかしら?」
 鷹野さんが一歩近づき、ハルヒの瞳を覗きこみながら、そう問いかけた。
「え、っと。全ての現象を人間が起こしてるんなら、オヤシロさまの祟りを起こしている
のも人間?」
 その命題を前提にすれば結論は他にないはずだ。だが、その結論の意味するところは
答えを出すことの簡単さとは逆に、実に重いものだった。
「・・・・・・涼宮さん。ここだけの話だよ?鷹野さんはね、オヤシロさまの祟りをめぐる
一連の怪死事件をね、・・・雛身沢の村人が何かの儀式に基づいて行っている人為的な
殺人事件だと見ているんだよ。」
「勘違いしないでね。私はそれにいたる教義や思想、文化を民俗学的見地から研究する
ことがライフワークなの。別に犯人が誰かなんてことにはまったく興味はないのよ?」
「でも、鷹野さんは知ってるんでしょ?少なくとも確信を持っているくらいには。」
 ハルヒの瞳がだんだんと光を取り戻していく。
「まぁ、もちろんあの辺の人たちが関わってるんだろうな〜っていう憶測は持ってるわよ。
鬼ヶ淵村の歴史を研究していれば、自然と至る必然的結論。」
「・・・それは誰です?」


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