「いつまで寝てるつもりよ。さっさと起きなさい!」
 ドアを叩く騒音と共に、睡眠不足の頭には優しくない、けたたましい声が響く。
こんな朝からいったい何事だというのか。名残惜しさを残す布団を後にして、渋々、
扉から顔を出す。
「団長を差し置いて高いびきとはいい度胸ね。すぐに着替えて玄関前に来なさい。
あんた以外は、もうみんな集まってるんだからね。」
 それだけ言い残すと足早にハルヒは去っていった。朝っぱらから騒々しい奴である。
ハルヒのすることに理由を考えるのも無駄と合理的な判断を下した俺は、あくびを一つ
吐くと手早く身支度を済ませて指定場所へと向かった。

 玄関から一歩外に出ると、そこにはどこか既視感に溢れた光景が待ち受けていた。
CDプレイヤーの脇に立ち、他の団員を眼前に並べたハルヒがこちらを見て、
「遅いわよ、キョン。みんな待ってるんだから、早く端っこに並びなさい。」
と指示を出すと、置いてあったCDプレイヤーのスイッチを入れる。すると、これまた、
耳慣れたメロディが流れてきた。これは…

「やっぱり夏休みといえばラジオ体操よね。一度くらいはやっておかないと、罰が
当たるってものよ。」
 何が悲しくて、この歳になって、朝の貴重な睡眠を捨ててまで、ラジオ体操をしなければ
ならないのだ。というか、体操をしないと怒りだす神ってのはどこのどいつだ(古泉の言を
借りれば、ハルヒということになりそうだが)。一日の始めから暗澹たる気分になりつつ、
列に並び体を動かし始めると、隣にいた古泉が、嫌味たらしい爽やかスマイルで声を
かけてきた。
「おはようございます。いい朝ですね。」
 何の皮肉だ、それは?
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。清々しく健康的な朝じゃありませんか。
何より、涼宮さんが機嫌よくしているのが素晴らしい。」
 そうだな。そのおかげでこちらが不機嫌になっているのを除けば、だが。
古泉の先を見ると、朝比奈さんが一生懸命に、長門が無表情に腕を振り回していた。
どちらもこれがラジオ体操初体験なのか、動きが今ひとつぎこちない。特に朝比奈さんは
ハルヒの手本についていけず、とても可愛らしいドジッ子っぷりを遺憾なく披露していた。
手元にカメラがないのが非常に悔やまれる。
 そうこうしているうちに、曲も終わりに差し掛かっていた。
これで、ようやく解放か。やれやれだ。俺がほっとしているとハルヒが口を開いた。
「じゃあ、次、2番行くわよ。」

「おい、ハルヒ。待ち合わせは午後のはずだろう。こんなに早く出てどうするんだ。」
 朝食後、一服挟んで早くも雛身沢に出発しようと自転車にまたがったハルヒに尋ねる。
「待ち合わせの時間まで、探索するに決まってるじゃない。昨日、気になったポイントを
チェックしに行くのよ。あの子達と一緒だと大っぴらに調べるわけにはいかないもの。」
 堂々と調べたからといって、昨日行った場所に変化があるとは到底思えないのだが、
待ち合わせの時間まで他に何かすることがあるわけでもないため、異議を挟むことも
できず、再度昨日の観光ルートを訪れることとなった。

 雛身沢に着くなり片っ端からハルヒの言う、怪しい場所を調べてみても、不思議な
ことも事件の手がかりも見つかるはずがなく、ひたすらむなしく空振りを繰り返す
俺達だったが、ハルヒの気力はちっとも衰えを見せず、どんどん次の目的地を
目指していく。今度は例のダム現場だった。
「昨日も言ったけど、こんなあからさまに怪しいところ他にはないわ。おまけに、
あれだけレナちゃんが過敏に反応していたくらいだもの、ここに手がかりがなければ、
むしろその方がおかしいって位のものよ。みんな、気合を入れて探しなさい。」
 なるほど、とっておきを最後に残していたからこその、あの元気だったわけか。
しかし、こちらからすれば、朝からあるはずもないものを延々と探し回り疲れた
今となって気合を入れろと言われても無茶な相談である。当然、意気など上がりようも
なく適当な作業に終始する。

「まったく、だらしないわねぇ。ま、いいわ。そろそろお昼だし、ゴハンにしましょ。
なんと!みくるちゃんの手作りサンドイッチよ。時価にしたら5千円くらい、
オークションに出したら50万くらいで売れるわね。それをあんたにタダで喰わせて
あげるんだから、あたしに感謝なさい。」
「ありがとうございます。」
 と俺は言った。朝比奈さんに。
 古泉も俺に倣って頭を下げていた。
「恐縮です。」
「いえ、いえ。上手くできたかどうか解らないけど・・・・・・・。美味しくなかったら
ごめんなさい。」
 そんなことがあり得るはずもないね。朝比奈さんのたおやかな指先がしめやかに調理した
飲食物はいつどこで何をどうしようと美味なのさ。・・・もっとも、より美味しくいただく
ためにゴミ捨て場から少し場所を移動したわけだが、この際それは横に置いておく。
 朝比奈さん手ずから渡してくれたおしぼりで手の汚れをぬぐい、ミックスサンドを口に
すると、それはもう感動的な味で、おかげで美味いのかどうかも解らないくらいだ。
もう何でもいい。ポットの熱い日本茶に噴出す汗も心なしか清々しくすらあった。
 とそこへ、背後から、カシャ、というシャッターを切るような音が聞こえた。
思いもよらぬ方向からの異音にいぶかしみながら後ろを振り返る。

「ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだ。君たちは雛身沢の人かい?」
 どうやら彼は雛身沢の人間ではないらしい。
「僕は冨竹。フリーのカメラマンさ。雛身沢にはたまに来るんだ。」
「ちょっと、おじさん。あたしの許可もなく勝手にあたしたちの写真を撮らないで
欲しいものね。」
「ごめんごめん。メインは野鳥の撮影でね。断った試しがないんだよ。あっははは!」
 俺たちの扱いは野鳥並らしい。
「いやいや、和気藹々と食事を囲む君たちの姿があまりにも絵になっていたんでね。
許可を取らずにファインダーを覗いたことを謝るよ。」
「ふん。解ればいいんですけど。」
 程よくおだてられ、勝手に写真を撮られたことへの腹立たしさは早くも引っ込んで
しまったらしい。
「ところで、古手神社って、ここからどう行けばいいか、知らないかい?マップを宿に
置いてきちゃったみたいでねぇ。困ってたんだよ。」
「ここから神社ですか?えーと。」
 朝比奈さんが答えあぐねる。昨日訪れた場所だから大体の位置は覚えているが、それを
口で説明するとなると難しい。
「あたしたちが案内しましょうか?そろそろ、そこに行くところだったし。」
 ハルヒが申し出た。そういえば今日の待ち合わせ場所は神社だったか。
「え?それはかたじけないねぇ。助かるよ。」
 俺たちは昼食の後片付けをすると、冨竹さんと一緒に古手神社へ向かった。


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