「熱心ねぇ。教えてあげてもいいけれど、その前に3つ誓ってもらうわ。
私が何を教えても後悔しない。口外しない。私が言ったなんて絶対言わない。」
 ハルヒはこくりと喉を動かしてから頷く。長門は何の反応も示さずに、朝比奈さんは今にも
吠え出しそうな大型犬を前にしたかのように、鷹野さんが続ける言葉を待つ。富竹さんは曖昧に
苦笑いしながら、タバコに火をつけていた。古泉は・・・この際どうでもいい。
「雛身沢連続怪死事件、通称オヤシロさまの祟りを下している黒幕だと、私が考えている
のは・・・。」
 と、今まさに核心について話そうとする瞬間に、蝉の鳴き声に混じって、後ろの方から
賑やかな喋り声と、石段を上る複数の足音が耳に入る。
「ねぇ、そこに停めてある自転車って、もしかして・・・。」
「多分ハルヒたちの自転車なのですよ。」
「それにしては少し数が多いような気がしますけれど、確かに見覚えがありますわね。」
「やっぱり遅刻かよ。ったく、魅音がちゃっちゃと課題を終わらせないからだぜ。」
「そんな事言ったってね、圭ちゃん。世の中には勉強なんかより、よっぽど大事なことが
たくさんあるんだよ。思春期の貴重な時間は、もっとそういう大事なことに使うべきだと
思ったら、勉強なんてやる気が起きるはずないでしょ?」
「だからって、補習を長引かせて、その貴重な時間を余分に削っちまったんじゃ意味ない
だろ・・・。」
 鷹野さんたちと話し込んでいたため気づかなかったが、いつの間にか約束の時間を過ぎて
いたらしい。前原君たち部活メンバーの元気な声と足音が次第に近づいてくる。
「あら、いいところだったのに、残念だけれど続きはまた今度にしましょうか。・・・あ、
もちろん、今のことは内緒よ?こんな罰当たりな話をお客さんに吹き込んでた、なんて
村人に知れたら私、袋叩きにあってしまうかもしれないもの・・・くすくす。」
 ここで話を打ち切ろうとする鷹野さんに、肝心なところを聞き逃すまいと、ハルヒが
食い下がろうとするが、時すでに遅く、石段を上り終えた部活メンバーがこちらの姿を
目敏く見つけ、駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。待ったかな、かな?」
「あら、富竹さんと鷹野さんもご一緒でしたの?奇遇ですわね。」
「こんにちは、皆さん。我々もついさっき来たところですからご心配には及びません。
・・・お二人も偶然ここで待ち合わせをされていたそうなんですよ。」
「おやぁ。神社で逢引中だったのかなぁ?富竹さんもすみにおけないねぇ、くっくっく。」
「そ、そういうわけじゃないよ。ただ僕の野鳥撮影に鷹野さんが付き合ってくれている
だけで・・・。」
「逢引・・・付き合う・・・はぅ。」
 あっという間に場は騒がしさに包まれ、鷹野さんから話を聞きだすという雰囲気では
なくなってしまう。
「それじゃ、愛の語らいの時間を邪魔しちゃ悪いし、私たちはそろそろ行こうか。
・・・あれ?ハルヒさんどうかしたの?難しい顔しちゃって。」
 口をへの字に曲げて、見るからに不機嫌そうなハルヒに、魅音が声をかける。
「別になんでもないわよ。」
 あからさまにむすっとしていたハルヒを心配してくれたのだろうが、あいにくハルヒに
人の善意を汲み取ろうという殊勝な心がけが期待できるはずもなく、無愛想な返事が
戻ってくる。ハルヒの性格に慣れた俺たちであればさして気にもしない、いつもの光景
だが、つい先日知り合ったばかりの魅音にとっては少々面食らったことだろう。やれやれ。
「すまないが、気にしないでやってくれ。本当にたいしたことではないんだ。」
一応魅音に耳打ちしておく。
「そ、そう。それなら別にいいんだけど。」
「それより、今日はどこに連れて行ってもらえるんだ?昨日だけでも結構色々回ったと
思うんだが。」
「そうだねぇ。実際目立った観光名所は、昨日大体行っちゃったんだけど、同じところに
行くのも芸がないしねぇ。」
 そうしてもらえるとこちらも助かる。なにしろ実際には昨日どころか、今日もすでに
同じところを回ってしまっているのだ。
 部活メンバーが額を寄せ合って行き先を相談し始める。こればかりはその輪に加われず
結論を待っていると、
「そういえば、」
 朝比奈さんが思い出したかのように口を開いた。
「皆さんは部活メンバーと呼ばれていましたけど、何の部活をしているんですか?」
「ん?私たちの部活?・・・ふっふっふ、我が部はだね、複雑化する社会に対応するため、
活動ごとに提案される様々な条件下・・・」
「つまり、みんなでゲームして遊ぶ部活なのです。」
「この間のゲーム大会も部活の一環だったんだよ。」
「へー、そうなんですかぁ。なんだか面白そうな部活ですねぇ。」
 それのどこが部活なんだ、という無粋な突っ込みは、朝比奈さんの感嘆と梨花ちゃんの
笑顔の前では勿論何の意味ももたない。
「では、ボクたちが普段遊んでいるところにご案内するというのはどうですか?皆で
部活をすればきっと面白いのですよ。」
「あら、でしたら是非とも裏山をお勧めしますわ。私が皆さんに驚きと感動をお約束し
ましてよ!」
「ふむ、その手があったか。なるほどねぇ・・・。」
 魅音が値踏みするようにこちらを見る。
「じゃあ、今日はみんなで部活をしてみる?もちろんキョンさんたちがそれで良ければ
だけど。・・・何しろうちの部活は過酷で非情だからねぇ。あらゆる苦難を厭わない覚悟が
要求されるけど、それでも構わないというならゲスト部員として歓迎するよ。」
 ゲームひとつになにやら凄い念の押され様だ。その圧迫感に朝比奈さんが後ずさりして
しまっている。しかし、さっきからおとなしくしていたせいで少々忘れ気味だったが、
こういう挑発を受けて黙っていられない奴が、我がSOS団には若干一名存在している。
「いいわよ。その挑戦受けて立とうじゃない。でも、ゲストだなんてケチくさい肩書きは
いらないわね。あたしたちはSOS団として真っ向から勝負を受けるわ!」
 今泣いたカラスがなんとやらだ。もう機嫌が直ってすっかり勢いづいてしまっている。
いつものことだが団員の意志も聞かずに勝手に勝負を受けるな。もっとも、特に異論が
あるわけでもないのだが。
「くっくっく、いい返事だねぇ。じゃあそれで決まり。場所と種目は・・・・・・沙都子の
リクエスト通り裏山にしようか。ルールは簡単。頂上に先に辿り着いた者の勝ち、但し
沙都子に限っては、他の人間が誰も頂上にたどり着けなかった場合のみ勝ちとする。
沙都子もそれでいいね?」
「ええ、構いませんことよ。むしろハンデとしては軽すぎるくらいですわね。」
 なんだか妙なことになっている。最年少の一人である沙都子ちゃんにだけ、なぜ重い
ハンデが課せられるのだろうか。そもそも、誰も辿り着けないとはどういうことか。
同じ疑問に行き当たったのは、意外なことに前原君だった。
「おいおい、なんで沙都子だけ別扱いなんだ?そんなので勝っても俺は嬉しくないぞ。」
「あれ?そういえば圭ちゃんは、まだ裏山に行ったことないんだっけ?」
「あのね、圭一くん。裏山には沙都子ちゃんの作った・・・」
「ダメですわよ、レナさん。その先は着いてからのお楽しみですわ、おっほっほ。」
「沙都子の作ったって、・・まさか?くそ、この俺がそういつもいつも引っ掛かると思ったら
大間違いだ。今日こそは見破ってみせるぜ。」
 沙都子ちゃんにさえぎられ、答えは得られなかったものの、何か見当はついたらしい。
なにやら闘志を燃やし始めている。
「なんでしたら、ハルヒさんたちにはもっとハンデを付けてさしあげた方がよろしくは
ありませんこと?なにしろ私たちには地の利がありますもの。」
「いいえ、気遣いは無用よ。相手に情けをかけられて勝ったんじゃ、SOS団の名折れ
ですもの。正々堂々真っ向から勝負よ!」
「いい度胸だね。でも、その威勢が裏目に出ないといいけどねぇ。言っておくけど、
狙うのは1位のみ。そのためにはあらゆる努力をすることが義務付けられているからね。
そこのところを忘れないように。おじさんからの忠告だよ。」
 不気味な笑みを漏らしながら、魅音が含みのある助言をしてくれる。
「あらゆる努力ですか・・・なるほど、それは大変そうですね。いえ、面白そうと言うべき
でしょうか。」
古泉がこちらもくくくと笑いを漏らす。

「ところで、昨日から気になっていたんだけれど、SOS団ってどういうことをする
団体なのかな。」
「お、それはおじさんも知りたいね。ちょっと変わった名前の由来とか興味あるな。」
「知りたい?なら、ぜひ聞いてちょうだい。SOS団とはすなわち・・・」
 止める暇もあればこそだ。ハルヒは、胸を張って、満面の笑みを浮かべ、大音量で我らが
SOS団の恥ずかしい正式名称を名乗りあげた。
「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団よ!」


 その夜、果敢にも裏山登山に挑戦したことでくたびれ果てた俺は、旅館のロビーに並べて
あるソファーに深く身を沈めていた。
 結局、その後の部活は阿鼻叫喚の中、沙都子の完勝をもって幕を閉じた。ここ数ヶ月の
間で大抵のことには動じなくなったと自負する俺だが、今日の出来事は大いに驚くべき
ことだった。なにしろ何の変哲もない田舎の裏山がトラップで要塞化しているのだ。しかも
それを仕掛けたのが小学生の少女だって?冗談も休み休み言え。しかし、冗談でない
からこそ疲れ果てている現在の俺がいるわけで。全く、春からこっち、どうしてこう
俺の周りには非常識な連中ばかり寄ってくるのだろうか。古泉に言わせればハルヒが
それを望んだからということになりそうだが、そうするとハルヒに捕まった時点で俺の
命運は尽きていたことになる。やれやれ。
 思い出すの忌々しいが、一応団員の戦績を述べておくと、朝比奈さんが最下位で俺が
ブービー。他の3人はそこそこいいところまで登ったらしいが、結局沙都子の魔手に
かかっている。というわけで俺は何とか罰ゲームだけは回避することができたわけだが、
可哀相に朝比奈さんはとんだ辱めを受けることとなってしまった。といっても、それは
彼女が普段ハルヒから受けている仕打ちと同種のものだったので、幸いにも?心の傷は
そう深いものにならずにすんだようだが。
 聞けば前原君はあの手の罰ゲームをしょっちゅうやらされているらしい。
あれを自分が受けていた可能性を考えると・・・止めておこう我ながら虫酸が走る。
 それにしても、長門が脱落したのは意外な結果だった。確かに沙都子のトラップは凶悪な
ものだったが、あくまでそれは常識的な範囲のものである。存在自体非常識な長門が苦に
するようなものとは到底思えない。気を利かせて超常的な力を使わないでくれたのか。
それとも・・・。
 少し離れたソファーで黙々と分厚い本を読んでいる長門を眺める。そういえば、
こっちに来てから僅かだが長門の様子がおかしいような気もする。
「長門。」
 俺の声に夏用セーラー服を着た有機ヒューマノイドが顔を上げる。
「いや・・・何でもないんだけどな。最近どうだ?元気か?」
 長門はパチリと瞬きをして、分度器で測らないと解らないくらいのうなずきを返した。
「元気。」
「そりゃよかった。」
「そう。」
 ほんの少ししか動かない凝固顔がことさらに固まっているような・・・いや逆か、変に
緩んでいるような・・・そんな矛盾した感想が同時に出てくるくらいだから俺の気のせい
なのかもしれない。
 そんな考えごとをしていると、ポケットに入れていた携帯電話の呼び出しを受けた。
ちなみに雛身沢では携帯は圏外。相当な田舎であることを再認識させてくれる事実だ。
「やっほー、キョンくん、元気〜?」
 通話ボタンを押すと妹のけたたましい声が耳に飛び込んできた。こんなところまで
何の用だ?まさか自分も行きたいとか言い始めるんじゃないだろうな。
「違うよー。でも本当は行きたかったのに、キョンくんだけこっそり行くなんて
ずるい〜。」
 ・・・やはり、妹に気づかれないように家を出たのは正解だったようだ。
それはともかく、早く本題に入れ。
「んとねー。親戚のひとが、死んじゃってお葬式があるから、キョンくんも帰って
きなさいだって。でも、無理ならいいって。」
 どっちなんだ。意味が解らないぞ。そもそも死んだって誰が?
「んー、よく知らない人ー。キョンくんも会ったことないからどっちでもいいって
言ってたよ。」
 ・・・要するに遠い親戚が亡くなったから、自分たちは葬式に行くけどお前はどうする?
ということだろうか。さて、どうしたものか。

A 止むを得ない。一時合宿を離れる。
B 気が進まない。合宿に残る。


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