結局、現れたガイドの面々は梨花ちゃんの友達で、梨花ちゃんもガイドの一員なのだそうだ。
そして、その友達だが、こちらも見覚えのある顔ぶれだった。
「あなたは昨日の!」
「あらあら、これは奇遇ですわね。観光に来たお客さんというのはあなた方だったん
ですのね。」
 やはりというか、昨日SOS団がそれぞれに対戦した相手である。確か部活メンバーとか
呼ばれていたか。何の部活かは知らないが。しかし、村の若いのを行かせるとは聞いて
いたが、本当に若い人選だ。年が近い方が馴染みやすいと、気を使ってくれたのだろうか。
「えと、ひょっとして、昨日イベントに来てくれた人たちだよね。そっか、見知らぬ顔だ
と思ったら、やっぱり、観光客だったんだね〜。改めまして初めまして。雛身沢へ
ようこそ。あたしは園崎魅音です。で、こっちが・・・」
ということで、お互いに自己紹介をすることになった。向こうの五人が順次挨拶をする。
「竜宮レナです。レナって呼んでください。」
「北条沙都子ですわ。先日は失礼いたしましたわ。」
「みぃ、よろしくお願いしますですよ。」
そして、最後の一人に周囲の視線が向けられる。
「あ、・・・前原圭一です。」
 それまで仲間たちの陰に隠れるようにしていた彼の姿があらわになると、気まずい沈黙が
周囲を支配した。
「・・・圭ちゃん。やっぱそれ、怪しいと思うよ。」
 魅音が、彼の怪しさの根源、すなわち野球帽にサングラスにマスクというあからさまに
不審なファッションをずばり指差す。
「しょうがないだろ!誰かさんのせいで、とてもじゃないが人様に見せられない顔に
なっちまったんだからな。」

「あはは、でも、レナもその格好はちょっと変だと思うな。」
「圭一が変質者さんになってしまったのです。きっと沙都子が攫われて、がくがく
ぶるぶる、にゃーにゃーで大変なことになりますですよ。」
「な、なんで私なんですの!?」
「だ、駄目なんだよ。沙都子ちゃんはレナがお持ち帰りするんだから、圭一君はダーメ。
はぅ、怖がる沙都子ちゃんかぁいいよ〜。お持ち帰り〜。」
 言うが早いか、光速の何かが、空間を横切り前原君の顔面に直撃する。と、その拍子に
マスクとサングラスがはらりとはがれ落ちた。そこに現れた顔は見るも無残に赤黒く
変色し、全く元の姿からはかけ離れた悲惨なものに成り果てていた。彼はあわてて顔を
隠そうとするが時すでに遅く、辺りは笑いの渦に飲み込まれていたのだった。
「ち、ちくしょう。だから油性はやめろって言ったんだよ!しかも2色も使いやがって。
これ、いくら洗っても、全然落ちないじゃねぇか!」
「くっくっく、甘いよ、圭ちゃん。昨日の失態を水性ペンくらいで埋め合わせることが
できるわけないじゃない。数日間はさらし者になってもらわないと、ねぇ?」
「ふっふっふ、解ってるじゃない!やっぱり罰ゲームは過酷じゃないとね。中途半端じゃ
面白くないもの。気に入ったわ!あたしは、SOS団、団長の涼宮ハルヒ!こっちが団員
その1からその4!こちらこそよろしくね!」
それじゃ紹介になってないだろう。気を取り直して各々紹介しなおす。
「古泉一樹です。よろしく。」
「朝比奈みくるです。仲良くしてくださいね。」
「長門有希。」
「で、俺が・・・・」
「キョンよ。挨拶はこれくらいにして行きましょう。あ、お客さんだからって、変に気を
使わないでね。あたしは堅苦しいのは苦手なのよ。」
「あはは、そう言ってくれると助かるよ。じゃあ早速、出発しようか!!
雛身沢大自然ウォッチング!」

 総勢十人に膨れ上がった自転車集団が田舎道を走り抜ける。通行の妨げにならないか
少し気になったが、そもそも人通りが少ないのでその心配もなさそうだ。
 梨花ちゃん達が案内してくれる場所はどこも絶景で、観光の目的で来たのではないはずの
ハルヒでも、うなるような景色に溢れていた。朝比奈さんが、あちこちで歓声を上げては
盛んにシャッターを切る。未来ではこんな自然はもう無くなっているのだろうか。
かくいう俺にとっても村の観光は十分楽しいものだった。単調な都会の景色と違い風情の
ある村の風景は、村人にとってどんなに下らないものであっても、のどかな味わいが
あった。
「んじゃあ、最後に一番景色のいいところに案内しようかねぇ!」
時間は夕方少し前。日はまだ厳しいが、風にほのかな涼しさが混じりだす時間。
みんなとの雛身沢散策はそろそろ終わりのようだった。
「・・・一番景色のいいところですか?」
「そりゃ梨花ちゃん。境内からの景色をおいて、他には考えられないぜ。
そうだろ?魅音。」
「では、みくるたちをボクたちのお家へご招待なのです。」
「え?梨花ちゃんたちのお家って、・・・え?」
「神社ですわよ。古手神社。私と梨花はそこに住んでおりますの。高台にありましてねぇ。
いい景色が見られるんですのよ!」
朝比奈さんの疑問に沙都子ちゃんが答える。
「わ。ぜひ案内してもらいたいです。梨花ちゃんたちのお家。」
「じゃあ、ちゃきちゃき行こうかね。時間も遅くなってきたし。」

「もう最後なんだ・・・。あ、じゃあさ。その前にちょっとだけ寄り道してもいいかな?
・・・かな?」
「寄り道?遠いところ?」
「ちょっと歩くけど・・・すぐ済むから!」
「もしかして・・・あそこ?うーん、おじさんは、あまり余所の人にあそこを見せたくは
ないんだけどなぁ。」
 なにやら次の目的地のことで揉め始めた。レナちゃんはどこに行きたがっているの
だろうか。
「ちょっとちょっと、別に気を使わなくていいって言ったでしょ?案内してくれるんなら
あたしたちはどこにでもついていくわよ。レナちゃんはどこに行きたいの?」
「あのね、宝の山があるんだよ。とってもかぁいいの☆・・はぅ〜。」
「宝!?そんなところがあるのに案内してくれないなんて冷たいじゃない、魅音ちゃん。
さあ、レナちゃん。すぐ案内してちょうだい!」
 宝と聞いてハルヒが目の色を変える。
「おじさんはお勧めしないけど、ま、本人が行きたいって言うのなら仕方ないか。
こっちだよ。ついてきて。」
 魅音は苦笑を浮かべるとしぶしぶといったそぶりを見せながら進行方向を変えた。
 
「で、これのどこが宝の山なわけ?納得いく説明をしてもらいたいわね。」
 沢を臨む斜面に粗大ごみの山がぶちまけられていた。きっと不法投棄というやつだろう。
時々問題になって、新聞をにぎわせることがある。もちろん宝には見えない。
「ゴ、ゴミじゃないよ!・・・レナにとっては宝の山だもん。わぁ新しい山だ。
わくわく・・・わくわく!」
「・・・だからお勧めしないって言ったんだけどね。」
 魅音が申し訳なさそうに首をすくめる。そういうことなら前もってきちんと説明して
ほしかったのだが。
「・・・ま、いいわ。キョン何ぼさっとしているの。さっさとついてきなさい。」
 ハルヒが俺の腕を引っ張ってずんずん斜面を下りていく。さっきまでのアヒル顔はどこへ
やらだ。いったいなんでこいつはこんなに目を輝かせているんだ?
「馬鹿ね、キョン。こういうところには昔から事件の手がかりが埋まっているって
決まってるのよ。例えば・・・死体とかね。」
 ハルヒが俺の耳に口を寄せてささやく。そんな都合よく何か見つかるとは思えないし、
たとえあるとしても俺は死体なんか見つけたくないのだが。
「うるさいわね。文句言ってないで、ちゃっちゃと探しなさい。団長命令よ。」
 うんざりした気分で上を見上げる。誰かこいつを止めてくれないものか。すると古泉が
口を開いた。
「団長、お気をつけて。我々一同、ここで団長の帰りをお待ちしております。」
・・・やれやれだ。

 結局俺たちは、レナちゃんの後についてゴミあさりを手伝うことになった。彼女は、
「かぁいいもの」を探しているらしいのだが、なにをもって可愛いというかは定かでない。
もちろん、何かの手がかりなど見つかるはずもなく、10分ほど探したところで早くも
ハルヒがしびれをきらしてきたようだ。口がへの字に曲がっている。
「ほんとにゴミばっかりだけど、ここってなんの場所だったの?近くに工事の跡みたい
なのがあるけど。」
「ダムの工事をやってたんだってね。詳しく知らないけど・・・・はぅ・・・。」
「ふぅん。・・・例えばさ、工事中に何かあったとか。事故とか。」

「知らない。」

 いやにはっきりした声だった。それは返答というよりも拒否に近い響きを含んでいた。
俺たちはよほどきょとんとした顔をしていたのだろうか。レナちゃんはすぐに表情を
柔らかくした。
「実はね。レナ、去年までよそに住んでたの。」
「え?そうだったの。あたしはてっきり・・・・」
「だからね。それ以前のことはよく知らないの。・・・ごめんね☆」
 よく知らないし、話題にもしたくない。そういう含みが感じられた。
考えてみれば当たり前だ。もしここがバラバラ殺人の現場なら女の子にとって
楽しい話題のわけがない。・・・ハルヒを除いて。
「・・・そろそろ戻ろっか。あんまりみんなを待たせても悪いし。ごめんなさい、つきあわせて
しまって。」
「それは構わないけど・・・。そうね、特に何もないみたいだから、次の場所へ行きましょう。」
 なんだか毒気を抜かれたまま、俺たちは斜面を上りみんなのところへと戻った。

「ははは!みんな、お待たせ〜。待ったかな?・・・かな?」
「いえ、それほどでもありませんよ。掘り出し物は見つかりましたか?」
「うん!あったの。あのね、ケンタくん人形♪!!はぅ、かぁいい〜。
お持ち帰りしたいぃ〜☆」
 やはりこの子の感覚は解らない。
「ではボクたちのお家にご案内しますです。真打登場なのですよ。」
「よし、少し天気もあやしくなってきたから、ちょっと急いで行こう。みんな遅れないで
付いてきてよ〜?」
 言うが早いか、魅音がペダルを漕ぎ始める。
「あ、待ってください〜。」
 朝比奈さんの声に釣られるように、俺たちも慌てて自転車を走らせた。


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