「遅い。罰金。」
例によって集合場所に最後に到着した俺に判決主文が読み上げられた。
朝の駅前である。これから列車に乗って、さらにいろいろと乗り継ぎ、目的地である
興宮到着時刻は昼過ぎとなっている。
「でもまだいいわ。これから電車に乗るからあんたは全員にお昼ご飯を奢ること。
さあみんな!×番線よ!さっさとついてきなさい!」

特急列車先頭車両の一角を陣地としたSOS団の面々は、俺が買わされた駅弁を
食べながら歓談をおこなっていた。喋っているのはもっぱらハルヒと古泉だけだったが。
「あとどれくらいで着くの?」
「この特急で2時間ほどの旅となります。そこから鈍行に乗り換えて約30分ですね。
到着した駅で知り合いが待っていてくれる手筈になっています。もっともそこは興宮と
いう隣町でして、雛見沢への公共交通機関はありませんから、徒歩で行くか、あるいは
なにか乗り物を調達しなければなりません。」
「楽しみだわ。すっごく。やっぱ事件は寒村で起きるものよね!古泉くん、このあたしの
期待は裏切られないわよね!?」
「どのような出来事を事件と言うのかは定かではありませんが」
古泉は柔和に答えた。
「愉快な旅行になることを僕も願っていますよ。」

「何寝てんのよバカ。さっさと起きなさいよ。あんたは真面目に合宿するつもりあんの?
行きの電車の中でそんなことじゃこれからどうするつもり?」
寝ているうちに目的の駅に到着したみたいで、俺はなにか取り返しのつかない損を
してしまったような気になった。
「初めの一歩が重要なのよ。あんたは物事を楽しもうっていう心意気に欠けているの。
見なさい、みんなを。合宿に向ける気持ちが瞳の輝きとなって溢れているじゃない。」
ハルヒが指差す先には、下車に向けて荷物を抱え始めている三名の下僕たちがいた。
「もう着いたのか。」
朝比奈さんとの電車旅での楽しい語らいの時間を俺はみすみす欲求の赴くまま睡眠に
よって消し去ってしまったわけだ。うお、いきなりけちがついた。自己批判を脳内で
繰り広げながら、俺は自分の鞄を引き寄せた。電車が大きく速度を落とし、
「きゃ」
朝比奈さんがバランスを崩してよろけるのを、長門は静かに支えてやっていた。

電車を降りた俺たちを執事とメイドが待ち受けていた。
「やあ、荒川さん。お久しぶりです。」
と言って朗らかに片手を挙げたのは古泉だった。
「森さんも。出迎えごくろうさまです。わざわざすみませんね。
ご紹介します。これから我々が宿泊する、僕の親類の旅館でお世話になるだろうお二人が、
こちらの荒川さんと森さんです。職業はそれぞれ番頭と女中さん、ああ、それは見れば
解りますか。」
「お待ちしておりました。番頭の荒川と申します。」
「森園生です。女中をやっております。よろしくお願いします。」
二人はぴったり同じ角度で頭を下げ、何度も練習したのかと疑いたくなるほどぴったり
同じタイミングで顔を上げた。
「女中がメイド?」
 ハルヒが虚をつかれたように呟いているが俺も同じような心境だ。よもやそんな旅館が
日本に存在していたとは知らなかった。
「ふぁ・・・」
 気の抜けた声を出したのは朝比奈さんで、彼女はびっくり眼で森さんを見つめていた。
その視線にはどことなく羨望の色が混じっているような気がしたが、ハルヒの強制に
従っているうちに本物のメイドに対する憧れでも生じているのかもしれないな。
 その頃長戸は何一つ感想を言うこともなければ顔色一つ変えずに、どこか退屈そうな
瞳を出迎えの二人に注いでいた。
「それでは皆様、こちらに車を用意しております。なにぶん従業員が我々しかいない
もので不便かと存じますがご容赦のほどを。」
 二人に案内されて送迎用の白いワゴン車に乗り込み、一路宿泊先へと向かう。
さして時間もかからず到着すると、経営者の弟だという裕さんという人の出迎えを
受けた後、旅館の主人との対面が果たされることとなった。
「いらっしゃい。」
多丸圭一さんと言うらしい、その普通のおっさんは俺たちを迎え入れるように片手を
広げた。
「待っていたよ、一樹くん。と、その友人の皆さん。全く正直なところ今の時期は
酷くお客が少なくてね。宿泊客は裕以外では一樹くんたちだけなんだよ。」
どおりで親類と言うだけでやけに宿代が安かったわけだ。これではろくに従業員も雇え
ないのだろう。俺がこの旅館の行く末を案じていると、
「初めまして旅館のご主人!この辺り何か事件が起きると思う?現地の人たちから
噂でも聞いてない?あたしはそういうのが趣味なのよ。」
初対面の人間に奇矯な趣味を披露するな。というか現地住民を捕まえて事件があった
ほうがいいようなことを言うな。追い返されたりしたらどうするんだ。
だが、多丸圭一氏はどうにも太っ腹なことにおかしそうに笑っただけで、
「キミの趣味には大いに同調するけど、私もこの旅館を買い取ってから日が浅くてね。
土地の来歴にはあまり詳しくないんだよ。特に不吉な話も聞いていないが。過去にあった
という事件も解決済みだしね。」
多丸氏は大らかに人間味を見せつけると、自ら俺たちを部屋に案内してくれた。

適当に部屋割りして荷物を置いた俺たちは、ハルヒの部屋に集合していた。
「じゃあ、早速行動するわよ。事件は待ってくれないんだから。」
到着したばかりだというのに、もう行動するのか。少しは旅の疲れを癒そうとは
考えないのだろうかね。しかも行動するといっても、俺たちが何をすればいいのか
さっぱりわからん。
「ゲーム大会に出るのよ!」
「え・・・」朝比奈さんが絶句している。
「何に出るって?」
「これ。」
得意満面の表情でハルヒが俺に差し出したのは、一枚のチラシだった。俺はその紙切れ
に書かれている文字を音読する。
『市内アマチュアゲーム大会参加募集のお知らせ』
 この鹿骨市における卓上ゲームチャンピオンを決定しようとか何とか。主催は玩具屋で
不定期におこなわれたりおこなわれなかったりする由緒正しい?催しなのだそうだ。
「ふーん。」と呟いて俺は顔を上げた。
「で、誰が出るんだ。そのゲーム大会に。」
「あたしたちに決まってるじゃない!」とハルヒは断言してくれる。
そのゲーム大会になぜ俺たちが出場しなければならないのか。事件とこれとにいったい
どんな関係があるというのか。そもそもそのチラシはいつどこで入手したのか。あまりに
当然な疑問に対し、ハルヒは次のように答えた。
「いいこと、キョン。私たちにとってここは見知らぬ土地、いわばアウェーなの。当然、
地元の人間にはよそ者として警戒されるわ。そこで、この大会の出番よ。大会に優勝する
ことでSOS団の名前が広まれば、ここの人たちも捜査に協力的になるかもしれないじゃ
ない。いい機会だわ!」
玩具屋主催の大会にそんな大それた影響力があるとは思えないし、あったとしても
悪名が広まる可能性のほうが高いような気がするのだが。
「さあ解ったら出発よ!」もちろんハルヒには反対意見に耳を貸すつもりなどないのだった。

ちなみにチラシは駅の掲示板に貼ってあったらしい。迷惑なことをする人間もいたものだ。

ということでチラシの地図を頼りにやってきた。
玩具屋であり、大会会場だった。
道すがら、どうも不満が顔に出ていたのか古泉が俺に話しかけてきた。
「犯人捕獲作戦や死体探索行とかじゃなくてよかったじゃないですか。ゲームでしたら
我々の恐れているような非現実的な現象とは無関係でしょう。」
心なしかいつもより20%増しに爽やかな笑顔を浮かべている。そういえばこいつは
ゲームマニアだったな。むしろ願ったりという心境なのだろう。
ひそかにため息を漏らすと前方から、にぎやかな声が聞こえてくる。
「えぇ、そんなにもらえるんですかぁ。」
「そう、優勝賞金は五万円よ、五万円。みんな、負けは許されないわよ。」
町の玩具屋にしてはけっこうな金額を出したものである。昼飯を奢らされたせいで
財布の中身が少々さびしいことになっている俺には魅力的な情報だった。仕方ない、
出場するからには優勝を目指してみますか。

せっかく燃え始めた俺の闘志だったが、店に入ったとたんに雲散霧消するのだった。
えーと、どうみても小中学生しかいないんだがこの中に混じって戦えと?
「もちろん目標は変わらないわ。勝負の世界は非情なのよ。」
俺の脳裏に大人気なく次々と子供を蹴散らしていくSOS団の姿が描かれていく。
いかん、あまりにみっともないその光景に頭痛がしてきた。ハルヒに言っても聞く耳
持たないのは解りきっているのでこちらは止めようも無いが、せめて最後の一線位は
守らなければ。俺は手招きして長門を呼ぶと耳元に囁きかけた。
「長門、今回は魔術だか情報操作だかの超裏技はなしだ。子供相手にいかさまで勝つのは
情けなさすぎる。それにこれならまっとうに戦っても問題は無いはずだ。」
数秒間、俺の目をじっと見つめていた長戸は、無言でこっくりとうなずいて同意を示し、
俺の肩の荷物も少しだけ軽くなったのだった。

「みんないいかな〜?!傾注傾注〜!!」
俺たちに近い年頃の女の子が開会の挨拶をし、今日の大会のルールを説明し始める。
狙うのは優勝のみ、2位や3位はない。参加者は20人、これをくじ引きで5卓に分け、
それぞれの卓から一人の勝者を出す。勝者はトーナメント式で決勝を目指す。各卓の
競技方法はそれぞれの卓で決めるらしい。
「当然わかってると思うけど・・・部活メンバーには一般参加者とは別に罰ゲームが
付くからね。」
 司会の少女が友人らしき少年に向けた言葉が聞こえてきた。朝の駅のことが
思い出される。どこの部活でも考えることは一緒らしい。

くじの結果は陰謀めいたものだった。SOS団のメンバーは、全員きれいに5卓に
分かれたからだ。
「涼宮さんがそう望んだからですよ。」
頼んでもないのに古泉が解説してくれる。
「彼女は団員全員に予選を勝ち抜いてほしいんですよ。1回戦で負けてしまっては気の毒だ
と思っているんです。同じ卓に入ってしまっては必ずどちらかは負けてしまいますからね。
だから、全員が2回戦に上がるチャンスがある、全員別卓を望んでいるのでしょう。」
 ・・・まあそんなところだろうとは俺も考えていた。
「せっかく涼宮さんが配慮してくれたんです。おたがい一回戦突破を目指しましょう。」
それだけ言い残して古泉は自分の卓へ移動していった。
やれやれ、うちの団長様は変なところで気が回るようで。仕方ない、あとで難癖つけら
れてもつまらないし、恥を忍んで少しはやる気をだしますか。遊びだしね。
「じゃーみんな!!それぞれに対戦ゲームを決めて始めてちょうだい!!」
司会の合図で店内は一気ににぎやかになる。俺の対戦相手は小学生らしき少年二人組と
中学生とおぼしき少年一人だ。ゲームを決めるのに随分と紛糾したが、結局店長の提案で
百万長者ゲームに落ち着いた。ルーレットを回してゴールを目指し、最後に一番金を
持ってるやつが勝つというシンプルかつ身も蓋も無いゲームだ。
この時、思えばすでに危機感はあった。・・・その正体に気づくにはしばらくゲームを
続けなければならなかった。

 現時点で小学生二人組(確か富田くんと岡村くんといったか)が優位に立ち、俺と
中学生の少年(こちらは前原圭一くんというらしい。奇しくも多丸氏と同じ名前である)は
随分差をあけられていた。だからといってルーレットを回す以外に俺にがんばれることは
無い。そう、これは完全な運のゲームなのだ。どうやら前原くんも同じ考えにいたった
らしく頭を抱えている。これはハルヒには悪いが勝ち抜けは難しいかもしれない。
 他の団員はどんな感じだろう。自然と他の卓に目が向く。古泉の卓は・・・なんだ。
なにもしてないぞ。まだゲームが決まっていないのだろうか。古泉はくつろいだ様子で
椅子に座っていた。目線が合うとあきらめたように肩をすくめる。
 まさか、もう決着したのか!?何のゲームで?こうもあっさり?
古泉が下手の横好きなのは知っているがこの早さは・・・。

 じゃあ長門の卓はどうだ。ギャラリーがかなり騒いでいるが。どうやらゲームは
カルタらしい。店長が読み上げる役をしているようだ。長門には言い含めておいたから
人知を超えた力は使っていないはずだが、そもそもの基本性能が高いので常人相手に
苦戦するようなことはないと思うのだが。
「じゃあ読みますよ〜。『犬も歩けばくたびれる〜』」
スパ―――――ンッ!!!!
 店長が読み上げるのと同時に快音がし、目標のカードが卓上から、いや地上から
掻き消える。長戸!?いやあいつが俺にうそを吐くわけがない。ならどこへ?
深いスリットの入った白いワンピースを着た少女の頬にそれはあった。頬擦りして
いるのだ。
「はぅ〜〜〜〜・・・!かぁいいよぅ〜!!お持ち帰り〜〜〜!!!」
 ・・・すいません。俺の目には手の動きが見えなかったのですが、いったいどうなってるん
でしょう?ひょっとして、今頃になって異世界人の登場か!?・・・いやまさか。
 形勢は圧倒的にその子の有利だった。長門の手も同様に、目にも留まらぬスピードを
誇っているのだが、いかんせんその場から動かず手の届く範囲でのみ札をとっている
ため、せいぜい善戦止まりだ。その他については言うまでもない。
 いや長門。さっきと矛盾した発言をするようだが、その子が相手ならもう少しやる気を
見せてもばちは当たらないと思うぞ。無論人間の範囲でだが。
 その後も読み上げると同時に、スパ―――ン!スパ―――ン!!と快音が響いていた・・

 さてハルヒの方は、こちらもオーソドックスなゲーム、神経衰弱だった。ハルヒの
得意満面の表情を見る限りどうやら優勢にたっているらしい。さすがの大人気なさだ。
隣のちびっこの苦悩の表情が心苦しい。すまん、犬にでもかまれたと思って諦めてくれ。
神経衰弱というゲームは、中盤以降から一気に流れが速くなるのが特徴だ。
覚えるカードが減ればそれだけコンボはつながりやすくなる。その最初の流れを
掴んだ者がそのまま勝者になるといっても過言ではない。
 場のカードの数は減っている。きちんと暗記できているのなら一気に畳み掛ける
チャンスのはずだ。ハルヒも多分、おおよそのカード配置はわかっているだろう。
そして、順番は今まさにハルヒに回ってきたところだ。
「おちびちゃん、あたしは優勝を狙ってるの。だからこんなところで負けるわけには
いかないのよ。悪く思わないでね!」
 やはり残るカードを暗記できているようである。
完全に勝利を確信したようだ。ハルヒが満面の笑みを浮かべる。
決まりか、やれやれ。俺は視線を自分のゲームに戻すとルーレットを回した。

「う、嘘っ!?そんな!!確かにここはハートのA・・・ッ!!」
ハルヒの卓で悲鳴とざわめきが起こった。俺と小学生二人も驚きそちらに振り返る。
ギャラリーたちは口々に、「いや、あそこはハートのAだった」と騒いでいた。
そんな、バカなことが・・・見間違い・・・興奮していたから・・・。勝利を確信していながら
敗北したハルヒはまだ信じられない様子で卓上を見つめている。
 まさかあいつまで負けてしまうとは。この店には魔物でも潜んでいるのか?だったら
長門の出番だが、あいにく長門はそのようなそぶりを見せていない。つまりこれは
常識の範囲内の出来事だということだった。

 つぎつぎとメンバーが討ち死にしていく中、進展のない俺はひそかに安堵していた。
これで俺だけが槍玉に挙げられる事態は避けられそうだ。
 そうだ、朝比奈さんはどうなっているんだろう。あの愛らしい、わが部のマスコットに
してメイドさん、朝比奈さんはどこだ?・・・あそこか。
 その一角は、明らかに他の卓の緊張感とは別世界だった。朝比奈さんの卓は、懐かしい
魚釣りゲームをしていたが、それは既に対戦と呼べる雰囲気ではない。
「わぁ♪、釣れましたですよ〜。」
「うふふ。うまいうまい!梨花ちゃん、とってもお上手なんですねぇ。」
「みくるはなかなか釣れなくて、かわいそかわいそなのです。
こうやってやさしくやさしく釣ってあげるのですよ、にぱ〜。」
 朝比奈さん、あなたに争いは似合いません。どうぞ心行くまで魚釣りを堪能ください。
 自然と溜息が出る。なんで俺はあの卓じゃなく、この卓で野郎どもとギスギス百万長者
ゲームなんかしているんだっけ?なんだか無性にむなしくなってきた。

 前原くんのところに各卓の勝者がやってくる。どうやら彼らは友人らしい。苦戦中の彼を
口々にからかっている。
「し・・・仕方ないだろ。このゲーム、ルーレット回す以外に何も作戦がないんだぜ?!」
 彼の言い分はもっともだったが、仲間たちは全くとりあわない。
「失望したよ。みんな本気なのに、圭ちゃんだけは、本気になってくれなかったね。」
 司会の女の子は不機嫌そうに背を向けると店の奥へ消えた。本気て。うちの団長以外にも
こんな無茶を言う人間がいたとは。彼には、しみじみ同情する。
「すいません、トイレタイムです!」
 彼は小学生二人の肩をガシッと力強く抱くとそのまま店の奥へ引きずっていった。
男同士で連れションか?すると、俺がひとりになったのを見計らったように古泉が現れた。
「まずいことになりました。閉鎖空間が発生したようです。これまでにない規模だそうですよ。
ものすごい速度で拡大しているとのことです。」
 閉鎖空間。俺にもおなじみのあの灰色の世界。
「つまりこういうことです。涼宮さんはゲームに負けたことで非常に不機嫌になっている。
ゆえに閉鎖空間は発生し彼女の機嫌が直らない限り拡大し続ける。」
「子供か、あいつは!でたらめだな。」
「何をいまさら言っているんですか。それも人ごとのように。おおいにあなたが関わって
いる事件なのですよ。あなたは現在SOS団唯一の生き残りです。しかも涼宮さんは
あなたには特に期待している。だから、あなたが劣勢でいることに失望を感じている。」
「・・・で俺はどうすればいいんだ?」
「勝ってください。どでかい逆転劇で。総資産100万越えで手を打ちますがいかがです?」
「無茶を言うな。俺ががんばったところでルーレットがどうにかなるわけないんだぞ。」
「そこを何とかしていただきたいと、我々一同切に願う所存ですよ。」
願われたところでどうしようもないだろ。
「とにかく全力を尽くしましょう。ここで、あなたが負けるようなことがあったら
世界が終わってしまうことと同義です。なんとしてでも逆転しなければね。」

「すいません、お待たせしました。さあゲームを再開しましょうか。」
 ようやく前原くんたちが戻ってくる。随分長いトイレ休憩だったな。
しかし、再開したは良いがどうやって勝ったものやら。

 ゲームを進めるうちに、俺は違和感を覚え始めた。ひょっとしてこれは・・・。
「あちゃあ、恵まれない人に寄付をする。他のプレイヤーの誰か一人に5万$支払うかぁ。
うーん、それじゃあ、前原さん受け取ってください。」
「おお。すまないな、富田くん。」
「あ、ぼくは連帯保証人になっちゃった。仕方ない、前原さんの約束手形を肩代わり
しますね。」
「岡村くん、残念だったな。」
 やはり間違いない。この二人はさっきトイレで前原くんに買収されたのだ。
このゲーム、運だけが全てかと思っていたが実はそうではない。無論ルーレットは
運次第だが、マスの指示の中には、ある程度プレイヤーの意志が介在するものが存在する。
今二人が止まったのがそれだ。普段は自分が有利になることなど大概決まっていて、
誰もがその通りの選択をするから問題にならないが、裏で談合があるとなると俄然
話が違ってくる。実際、前原くんはぐんぐんと資産を伸ばし、いまや二人を追い抜かん
ばかりだ。
「いやあ、ようやく調子が出てきたかな。このまま一気に逆転といくか!
覚悟はいいか、富田くん、岡村くん!!」
・・・白々しい台詞である。まったく最近の中学生は。おっと年寄りくさくなってしまった。
 しかし困った。これではただでさえ不利な俺が勝つ見込みは万に一つもない。
世界の命運は風前の灯だ。

「ちょっと失礼。盛り上がっているところをすみません。友人に少々緊急の話が
ありまして。いえ、すぐ済みますので。」
 再び古泉が俺のところにやってきて、店の端へと俺を連れて行った。
「さっきの続きですが、実は対症療法はあります。あなたが前回、涼宮さんとあちらの
世界から戻ってきた手を使えば、うまくいくかもしれません。」
「断る。」
 くくく、と古泉は喉を鳴らした。なんか腹立つぞ、お前。
「そう言うと思っていました。ではこうしましょう。ようは勝ちさえすればいいのです。
妙案を思いつきましたよ。多分、うまくいくと思います。彼女とは利害が一致するはず
ですから。」
 にこやかに言って古泉は、ぼーっとギャラリーの輪の外で佇んでいる長門の方へと
向かった。何かを囁きかけるふうである。不意に長門はするりと振り返り、
無感動な目つきでじっと俺を見つめた。その長戸に対して俺は大きくうなずく。
 すまん長戸、さっきと言ってることが違うが事情が変わったんだ。地球の危機は
救わなきゃならないし、インチキしてる相手に遠慮する必要はない。
長門はミクロ単位で俺にうなずき返すと、なにやらごにょごにょと唇を動かし始めた。
それを確認した俺は悠々と席に戻る。
「すまんな、君たち。待たせてしまって。」
「いえ、さっきのとお相子ですから。それよりもういいんですか。緊急の話だったん
ですよね?」
「ああ、そっちはもう解決したんだ。さ、気を取り直して始めよう。」
 正確には今から解決するのだが、ここまできたら同じことだ。

 ここから先は予想通りの展開、要するに面白いくらいに俺のひとり勝ちで、傍から
見ていた人間は、俺が一生分のルーレット運を使い果たしたと思ったに違いない。
「「「ゲ、ゲーム終了・・・」」」
 あの絶対不利な状態からの大逆転を目の当たりにしたギャラリーがどよめきだつ。
・・・あの男、ルーレットの目すら自在に操れるのか!?奇跡だ!魔性だ!
怪しげな技を持っているに違いないッ・・・!!
 正解である。男の部分を女に換えれば、だが。
「なかなかやるじゃない、キョン!あんたの強運もたいしたものだわ!」
  小躍りしながら近寄って来たハルヒは俺の肩をバンバン叩いた。
「お見事です。惚れ惚れとする大勝利ですね。」
 思わず殴りたくなる爽やかスマイルを浮かべた古泉がしれっとぬかしやがる。
「とんだ茶番だ。」

「無様ですわね〜。詰めが甘いんですのよ。」
「圭一くんは良くがんばったとレナは思うかな、かな。」
「・・・本当に本気の圭ちゃんなら開始十秒でけりがついてたはずだよ。」
「圭一、一人だけ負けてかわいそかわいそなのです。」

 仲間たちに囲まれ悄然とうなだれる前原くんを見ると今更ながら申し訳ない気がしてくる。
いくら裏取引に対抗するためとはいえ、さすがにやりすぎだったか・・・。
「ところでこれからどうします?2回戦もやりますか?」
「要するに負けたらハルヒはご機嫌斜めになるわけだろ。勝ち続けるには、また長門の
インチキマジックの世話になる必要がある。どう考えたって。これ以上、物理法則を
無視したらマズいだろうよ。棄権しよう。」
「それがいいでしょう。実は僕もそろそろ仲間の手伝いに行かなくてはならないんですよ。
『神人』退治の人手が足りないようでして」
それでは後はよろしく、と言って古泉は司会の女の子のところへ歩いていった。
司会の女の子がうなずいている。
「そちらのお兄さんも都合が悪いみたいだし、今日の勝負を、私、園崎魅音が預からせて
もらうよ。勝負方法と日時は未定。・・ギャラリーは多い方がいいね。雛見沢も興宮も、
すべての人間の目の前で。・・・これ以上ない徹底的な決着をつけてあげるよ。」
甲高い笑い声を残しながら・・・彼女は店を出て行った。おい古泉、話が違うんじゃないか。
俺は決着をつける気なんてないぞ。

「どういうつもりよ!棄権する気?」
 やっかいなのが残っていた。
「あれを見ろ。気の毒だと思わないか?」
 俺は机に突っ伏した前原くんと彼を慰める富田くん岡村くんを指し示す。
「なんで?」
「多分、彼らはこの日のためにつらく厳しい練習に耐えてきたんだ。これだけの
ギャラリーの前だからな、相当重圧もあっただろう。」
「だから?」
「彼らは年下で本気を出して負かすのは心苦しい。おまけに俺たちはよそ者で
あまりこの町のイベントを引っ掻き回してはマナーに欠ける。」
「それで?」
「2回戦は辞退しよう。充分楽しんだだろ。俺はおつりを誰かにやりたいくらいだ。
後は飯でも食いながらバカ話でもしている方がいい。実はもう頭とか精神とか
くたくたなんだ。」
「あんたがそれでいいなら、ま、いいわ。お腹空いたし。晩御飯にいきましょ。
あたし思うんだけど、世の中って意外に広いのね。あんな変な子たちがごろごろ
いるなんて思ってもなかったわ。」
 そうかい。
 それについては同感だが、お前に言われたのではあの子らもうかばれまい。

 俺たちが店を出て帰ろうとしていると、袋を持ったおもちゃ屋の店長がやってきた。
なんだろう?
「君たち、今日は本当にありがとう。おかげでイベントは大盛り上がりだったよ〜!
特に君、常勝無敵の部活メンバーの一角を崩してくれたおかげで、意外性のある展開に
他のお客さんも大喜びだったよ。大したものじゃないけどこれ今日のお礼に〜。」
 常勝?無敵?そんな名にしおう相手だったのか、彼らは。確かに只者ではないと
思ったが、どうやら地元では有名な存在であるらしい。
「いいんですか?俺はそんな大げさなことをしたわけでは。」
「いいのいいの。結局大会は途中で終わっちゃたしね。そのお詫びも兼ねて、ね。」
 店長は強引に袋を渡すと店内に戻っていった。
「やったじゃない、キョン。ね、なにが入ってるの?」
 俺は急かされて紙袋を開けてみる。
「わぁ、かわいい。」
 朝比奈さんが小さく歓声を上げる。袋の中身はかわいらしい着せ替え人形だった。
「くくく。キョンには似合わないものが出てきちゃったわね〜。」
 これは・・・あの店長なにを血迷って俺にこれを渡そうと思ったのだろうか?
「キョンが持ってたら、明日からもれなく速やかに変態扱いしてあげるわ。」
 ハルヒに言われるまでもない。深夜こっそり着せ替えを楽しむ俺の絵面は想像したくない。

A かわいいものといえば朝比奈さんだ。自明である。
B 仕方ないのでハルヒに渡しておく。
C 今日の真の功労者、長門に渡そう。


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