その日、SOS団は特にこれといった活動をせず、部室でダラダラ過ごしていた。
たまにはこんな日があってもいい。まぁ、できれば毎日こうであって欲しいんだが。
おそらく北高創立以来のビッグバンであろうSOS団団長・涼宮ハルヒから弾き出される
超新星爆発的な言動によって、小惑星でひっそり暮らす俺の生活秩序がブチ壊され、
常識なんて概念の存在しないブラックホールに巻き込まれるのは、
月一ぐらい、妥協したって週一ペースで十分だ。そりゃ団の活動が全く無くなったら
つまらんからな、時々は一緒に遊んでやってもいい。
 団員たちを見渡すと、各々ゆるやかに流れる時間を楽しんでいるようだ。
長門が本を閉じる音を合図に、一日平和でいられることのありがたみを噛み締め、
そして感謝しつつ俺たちは帰路についた。
 夜、晩飯も風呂も済ませてベッドに横たわると、日頃の疲れが蓄積していたのか、
あっという間に眠りの世界に吸い込まれた。
 "その日"を境に自分がSOS団の一員でなくなるとも知らずに──


「おい、そろそろ着くぞ。降りる支度をしておけ。」
 ……は?
 目が覚めるその瞬間まで夢が続いているのか、単に寝ぼけているのか、
意味のわからない呼びかけに反応して起きると、俺は列車に揺られて座っていた。
目の前には両親。えーと、まず状況説明からお願いしたいね。
「なに寝ぼけてんだ?まったく、お通夜のときからそんな調子で……
まぁ久々の都会だったから疲れてるんだな。今日は早く寝ろ。」
 いえいえ、今日は久々の平和デーでしたよ。お通夜って何ですか?

 両親の後ろをついていくようにして到着した我が家は豪邸だった。
上品さの漂うモダンな外装は素敵すぎて、どう見ても居住者の方が浮いている。
たった一夜にして、それも寝て起きただけで自宅が立派なお屋敷になっているとは、
若き日の豊臣秀吉もビックリだ。
 2階の自室に行くと、部屋の様子は昨日までの俺の部屋とほぼ同じだった。
少しばかり安心したところで、列車を降りてからの両親の会話の内容、
「何を言ってるんだこの子は?」という視線に耐えつつ聞きだした現在の状況、
それらを整理してみた。
 どうやら俺は親父の仕事の都合で数ヶ月前にとある田舎の村に引っ越してきたようだ。
そして昨日から親類の葬儀で都会の方まで行って、たった今帰ってきたというわけだ。
その間学校は休み。明日からまた登校する。とりあえず必要な情報はこんなもんか。
 要するに、またおかしな世界に迷い込んだってことですか。今度は何が原因だろうね。
しかしどうも最近こういう事態が起きても慌てなくなってきた。いいんだか悪いんだか。
 俺の記憶ではさっきまで居たはずのベッドで仰向けになって考えていると
すぐにウトウトしてきた。体が重い。あー、たしか村の名前も聞いたな。何だっけ?
えーと……雛見沢村、って言ってたかな?
 まどろみの中で"ヒナミザワ"という言葉に妙な胸騒ぎを感じながら、
その日二度目の眠りについた。

 朝だ。ひそかに夢オチを期待していたんだが、そんなに甘くはないな。
窓の外は田舎の村の景色のままだ。今日は学校行くんだっけ?あぁ、まだ体がダルい。
そういや学校の行き方わかんねーぞ。道とか全く知らないし。寝起きで回らない頭を
全力で起こそうとしていると、階下から俺を呼ぶ声がした。
「ほら早くしなさーい、レナちゃん待たせてるわよ?」
 誰だよそのレナってのは。待っててくれと頼んだ覚えもないし。
「あ、やっと起きてきたわ。ごめんね、いつも待たせちゃって。
じゃ、いってらっしゃい。気をつけるのよ。」
 支度を済ませて玄関に行くと、そこには俺の知らない女の子がいた。
「おはよう、キョンくん。寝坊しちゃったのかな?かな?」
 なぜ語尾を繰り返す。いや、それより誰なんだお前は?俺とどういう関係だ?
「レ……レナのこと、忘れちゃったのかな?かな?」
 そんな、火山が突然大爆発して周りのみんなが全員死んでしまった中、
自分一人が生き残ったかのごとく悲しい顔で言われたって……、
「覚えてるに決まってるだろ。俺がレナを忘れるなんて、あり得ない。」
 とりあえず適当に合わせておこうか。どうやらこの子と一緒に登校することに
なっているようだな。それはそれで助かるね。
「ほんとに?はぅ……あり得ないって、どういうことだろ?どういうことだろ?」
 頬を赤らめてうつむきながら微笑む顔は、美人系ではないが、
この繰り返される語尾の鬱陶しさを相殺してなお有り余るほどの
可愛らしさはあるだろう。
「あ……」
 その照れる仕草から、俺はふと朝比奈さんを思い出した。そういえば、
ここがどういう世界かは分からないが、朝比奈さんや長門はいるのか?
元の世界に戻る手がかりを知ってるんじゃないか?あと古泉とハルヒは……
「どうしたの?キョンくん。」
 隣にいる──レナに少し聞いてみるか。それとも全てを把握するまでは
様子を窺っている方がいいのだろうか。
「ん、何でもない。行こうぜ。」
 俺は後者を選択した。
 必要があれば、朝比奈さんか長門の方から接触してくるんじゃないだろうか。
楽観的すぎる気がしないでもないが、俺は一刻も早く元の世界に戻ることより、
この世界に興味があった。ナゼかは分からないが。
 俺とレナは、足に伝わる土の感触を味わいながら、舗装されていない道を歩き出した。

「おそーい!おそいよキョンちゃん?おじさん先に行っちゃおうかと思ったよ〜。」
 何と。俺は知らないところでもう一人女の子を待たせていたのか。こっちの世界の俺はモテモテか?
「急ごう?キョンくん。魅ぃちゃん待たせちゃったみたいだね。」
「魅ぃちゃん?」
「ええー?魅ぃちゃんまで忘れちゃったの?魅音ちゃんだよ、覚えてるよね?」
「え、あぁ、もちろん。冗談だって。」
 こっちに向かって大きく手を振る女の子は……朝比奈さんに勝るとも劣らない
見事な巨乳の持ち主だった。なかなか胸から目を離せないまま近付くと、
「あるぇ〜キョンちゃーん、2日ぶりのナイス・バディに見とれてるのかな〜?
おじさんまた育っちゃってさー。どう、成長を確かめてみる?」
「!?」
 ここは野暮な突っ込みナシで、確認させてもらいますね。成長とやらを。
ええ、本人もそれを望んでいますから。
「キョ、キョンくんも魅ぃちゃんも、そういうのはよくないと思うよ?思うよ?」
 いつのまに殴られたのか、正直全く気付かなかった。殴られたと自覚したのも
アゴに激しい痛みを感じたからだ。俺は地面に尻餅をつき、巨乳の──魅音も倒れていた。
何が起きたんだ?レナの握り締めるこぶしから微かに煙があがっているような……
後で聞いた話によると、通称レナぱん、文字通り目にもとまらぬ速さで打ち込む
高速パンチがレナの特技の一つらしい。そうか、宇宙人とか未来人とか超能力者とか、
別にそういう類の生物ではないんだな。
 一応言っておくが、巨乳に不埒な真似をするつもりなどなかったからな。最初から。

 教室で俺は学校の歴史が始まって以来最も古くから存在すると思われるイタズラに遭遇した。
見事に引っかかったソレはトラップと呼ばれ、ドアを開けたら上から黒板消しが落ちてくる、
というものだった。さらに一歩教室に踏み込めば足下には縄飛びが張ってあり、
つまずくと墨汁がなみなみと注がれたすずりが視界に飛び込んでくる。
「あ〜あ。今日も気持ちいいぐらい引っかかってるねーキョンちゃん。トラップ黒星何連敗中??」
「おはよう、沙都子ちゃん。」
 沙都子?なるほど、仕掛人の名か。床にはいつくばったまま顔を上げると
小学生にしか見えないスクール・テロリストが誇らしげに喜んでいやがる。
「おーっほほほほほ!キョンさん、朝からにぎやかですこと!
どうしたんですの?そんな真っ黒な顔して。」
 うんうん。子供のイタズラには広い心を持ってだな……こみ上げる怒りを抑えつつ
起き上がろうとすると、誰かに頭を撫でられた。
「今日だけは許してあげるのですよ、キョン。沙都子は2日もキョンに会えなくて
寂しかったのです。ボクがかわいそかわいそしてあげるですよ。にぱ〜☆」
 にぱ〜☆と笑いながら、これまた小学生のような女の子が俺を見下ろしている。
「そうだな。今日は特別だ。」
「まぁ、ちょっと見ない間にずいぶん大人になりましたわね、キョンさん。
いい心がけですわ。」
「沙都子の減らず口は相変わらずだけどな」


 出席を取るとき、どうやらこの世界で俺の友達となっている4人の女の子たちの
フルネームを聞き逃さないように気をつけ、4人全員の名前を覚えた。
 そして休み時間に、学年が混在していること、制服が別々で私服の生徒もいることの
理由について魅音に教えてもらった。
 何でも本来の学校が廃校になったため、遠い町の学校まで通わなければならない子供達のために
営林署の建物を間借りしているため、教室の数が足りていないらしい。それで学年どころか
学校も違うような生徒が一つの教室で学んでいる、というわけだ。それもあってか、
制服も学校で統一したものではなく、相応しいものであれば自由とされている。

 放課後になると魅音から『部活』の召集がかかった。部活……SOS団を連想した俺は
何の気なしにつぶやいた。
「まさかここでも宇宙人・未来人・超能力者なんかを探しに行くんじゃないだろうな?」
「……!? 今日はいつもと違う感じがしてましたけど、キョンさんはとうとう
頭がおかしくなったんじゃありませんの?病院で見てもらったほうがいいですわ!」
「あっはははは、宇宙人か〜。山奥だし、交信できるかもね。いいよーキョンちゃん。
おじさんそういうの嫌いじゃないよ。」
「たしかに今日ちょっと変だよ?キョンくん……具合悪いのかな?かな?
無理しないで今日の部活はお休みにする?」
 当然の反応ですよね。こんなセリフ聞いて、目を輝かせながら本気で
「賛成!アンタわかってるじゃない。さっそく行くわよ、善は急げって言うし!」
なんてほざくヤツを俺は今のところ一人しか知らない。
「はは。……でも今日は本当に調子悪いかもな。すまないが、
早引けさせてもらってもいいか?」
「えー、しょうがないなぁ〜。じゃあ今日の部活は中止にするかな。
おじさんも夕方から用事あるし。」
「仕方ないですわね、まったく。明日までにはちゃんと本調子に
戻しておいてくださいませ!でないと部員に迷惑がかかりますわ。」
「わりぃわりぃ。あ、ところでさ。うちのクラスに、その、ハルヒってやつは
いなかった……よな?」
「キョン。もういいですから、ちゃんと病院に行くのですよ。」

 すっかりカワイソウな人扱いされたが、今朝から体がダルいのは事実だし、
一応病院に行っておくことにした。家に帰ってお袋に場所を聞いて、病院に向かう。
登校するときも思ったが、ここの自然は素晴らしいな。空気に味があるなんて
生まれて初めて知ったよ。都会のような喧騒は一切無く、ひぐらしの鳴き声が響きわたる。
 田舎の醍醐味ってやつを堪能しながら自転車を走らせ着いた先は入江診療所という
村で唯一の病院だ。この村には不似合いなほど大きいことに、まず驚かされた。
医療機器やスタッフも充実していて、それはそれで結構なことなんだが、
ハルヒだったら「何かあるわね、ここは。」と間違いなく勘繰っていただろうな。
 診療を済ませて、特に異常なしってことで病院を後にした。ついでに
雛見沢から少し離れたところにある興宮という町で買い物してくるように
頼まれ地図を渡されていたので、それを見ながら再び自転車を走らせた。

 興宮でスーパーの前に自転車を停め、ふと歩道の先に視線を向けると
そこに俺のよく知る一団を見つけ、思わず叫んだ。
「おい、ハルヒ!」


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